印象派とは客観的に存在する世界というものを信用せず、画家個人の感覚世界を研ぎ澄ませ、写実を徹底する中から生まれてきたものである。彼らの仕事の中で特筆すべき発見は光の扱い方にある。従来の絵画は、光の変化は明暗の変化に過ぎなかったが、彼らは光のあらゆる輝きが色調で決定することを見いだした。対象の固有色を認めず、ものは光によって変化することを彼らは絵の制作を通して主張していった。やがてそれは一般の人々のものの捉え方にもなっていくことになるが、それを具体化する手法は各画家によって異なる。
1.
マ ネ 1832~1883
マネは近代絵画をその技法と題材の上で切り開いた画家である。題材としては極めて都会的で日常的な人物画が多く、伝統的な題材の絵画に対して挑発的なものに映り、話題を広くさらうことにもなった。また技法では、印象派というより写実主義にその基盤をまだ多くおいているが、それまでの画家がグレーのトーンで画面を統一していたところを、大胆な明暗の対立するハイコントラストの強烈で簡潔な画面に仕上げた。また、人物の造形表現において、肉付けの陰影法を用いず、いち早く浮世絵の手法を取り入れていたことも特徴的な面である。
マネは過去の多くの画家の技法を学び取り、サロンでも十分に通用するアカデミックな技量を備えた画家であったが、その新しい絵画は厳しく非難され、サロンにも落選することにもなった。しかし以下にあげる画家達の良き理解者であり、また彼らとの交流を通しお互いに影響を与えあって、印象派と呼ばれる新たな絵画手法を発展させた功績は大きい。ただし彼は八回あったそのグループ展には一度も参加していない。
*代表作: 鉄道 草上の昼食 オランピア ナナ アトリエの昼食 ラ・ジャポネーズ
フォリ・ベルジェールのバー ギター弾き 笛を吹く少年
2.
モネ
「私は、鳥が歌うように絵を描きたい。」モネの言葉である。マネの絵が明暗の対比が際立っており、どっしりとした厚味があるのに対し、モネの絵は全体が明るいトーンで、軽やかで喜びに満ちたものになっている。日本人に最も愛される印象派の画家と言える彼であるが、「印象 日の出」を発表した当初、「描きかけの壁紙にも劣る。」と評論家たちに酷評されたものであった。今ではとても目になじみやすく、心の和む絵も当時は何が描いてあるか分からなかったという。人間の感覚も100年の間にずいぶん変わってきている。印象派の欠点としてあげられた「細部の無視、デッサンの欠如、構図の軽視」は今では、そのまま全体の雰囲気を大切にし、瞬間の動きを捕らえる筆の軽やかなタッチと臨場感溢れる大胆な構図として、大きな魅力となっている。また、アトリエに籠もらず屋外で絵を描いたことが、これまでの描き方にこだわらない作風を生んだとも考えられる。これには、チューブ入りの絵の具の発明が重要な役割を担った。
晩年失明してからも、一瞬の色の移ろいを捕えようとした絵画は正に何を描いたか分からないものとなり、次に来る抽象画の世界を想わせる。
*代表作: ラ・グルヌイエール トルーヴィルの浜辺 庭の女たち ルーアン大聖堂 印象・日の出 積み藁 睡蓮 日傘をさす女
3. ルノアール
彼もまた大変人気の高い印象派の画家であり、モネが風景であれば、ルノアールは人物と言えよう。主題は風景が描かれてあっても、彼の場合はやはり人物である。生涯人物表現を追い続けけた画家である。その作風は彼の絵画の追究の過程で何度も変化しているが、生命感溢れる、愛らしく美しい画面は彼ならではのものである。また、技法において他の印象派の画家が避けた黒を色として積極的に使いこなしたことも特徴の一つであるが、何より特筆すべきは、印象派の画面がとかく色に捕らわれすぎ、形がつかみにくくなっていく傾向があるのに対し、形を単なる色模様の中に溶かさずに、きらめく色彩と両立させた点にある。
女性像に名作が多い。
*代表作 イレーヌ・カーン・ダンヴェール ムーラン・ドラ・ギャレット ぶらんこ 船遊びの昼食 浴女達 パリジェンヌ ジャンヌ・サマリーの肖像 ロメーヌ・ラコー嬢の肖像
4. ドガ
印象派の画家の多くが自分なりの方法で絵画を制作していたなか、ドガとマネは正規の教育を受け、アカデミックな技量をもった画家であるが、新たな絵画の創造のため、サロンとは異なる展覧会を作る必要があった。彼はまた印象派の重要な存在に数えられる。
しかし、他の印象派の画家とは異なり、彼は印象派の最も基本的な手法と言える、光の七色を混ぜずに小さなタッチで色を併置し彩度を落とさぬようにする色彩分割(筆触分割)を用いていない。その手法と密接な関係を持つ野外制作もしない。また、形態、デッサンが非常に精確である。以上の点で印象派以前の写実主義の時代の画家にもとれるが、彼の絵には伝統的な主題や型にはまった構図はいっさいない。同時代の踊り子や騎手が題材であり、また構図にしても、画面から半分切れた踊り子など、斬新なものである。更に運動の形態において、動物などの動きの構造を分析した画像などの新たな視覚を人々に与えた。これにはようやく実用化された写真機の普及が大きな役割を担っている。この意味でも、ドガはマネと同じく近代を切り開いた画家と言える。
*代表作 バレエのレッスン アイロンをかける洗濯女 オペラ座のバレエ 室内 カフェ・コンセール レ・ザンバサドール アブサント 手袋 舞台のバレエ稽古
5. ピサロ
「色彩の魔術師」と言う呼び名が与えられている画家がピサロである。しかし印象派の他の画家と比べ、知名度は高いとは言いがたい。
印象派の中で一番の年長者である彼は、印象派展第一回から最終回の第八回まですべてに作品を出品した唯一の画家である。このことは、回を追うごとに大きく変化し、印象派としての作風が拡散してゆき、後期印象派と呼ばれる新たな造形運動が明らかに芽生える時期までを他の誰よりも「印象派」とともに生きたと言える。ピサロは最も印象派を深く体現した画家である。
モネが水の反映にこだわり、シスレーが空に魅かれたのに対し、ピサロの絵は高い地平線を持ち確かな大地の広がりが特徴的である。そこでは色彩分割を駆使した、いつまで見ていても見飽きない変化に富み、かつ調和した色による風景が構成されており、印象派の生み出した最も優れた成果に数えられるものである。
もともと理論家である彼は後期印象派で特に有名な、自分の子供ほどの年齢のスーラの影響を受け、色彩分割を科学的な方法で極限まで推し進め、点描法で描くような実験的な作品も残している。しかしそれは自然の瞬間的な移り変わりを写実することに向かない技法であることを知り断念している。このことは、ピサロの受容性の高さと、柔軟さを表すところであろう。理論や感覚にこだわりすぎ、袋小路に陥る画家も少なくなかった印象派のなかで、革新的な試みをひろく認めながら、長く質の高い作品を作り続けてきた彼の資質と言える。
*代表作 赤い屋根 冬のマルヌ河岸 オペラ通り リンゴを収穫する人々 フランス 劇場の広場 休息する農夫たち エルミタージュの丘、ポントワース
6. シスレー
シスレーは印象派の中にあって、率直に自然に対し、他の画家のように理論的な技巧を見せたり、浮世絵を取り入れてみたりすることはなく、派手さはないが、デリケートで詩的な世界を作り上げた。取り上げる題材も、風景のみで、名もない小さな村や河が多い。
彼の作風を知るには、日時、天候を変え、13点描いた「モレの協会」とモネの「ルーアン大聖堂」を比べてみるとよくわかる。シスレーの教会は光の中に溶け込んでしまうことがない。教会の「絵」というより「教会」がしっかりと描かれている。
*代表作 セル・サン・クルーの栗の並木 アルジャントゥイユ近くの麦畑 朝の日差しを浴びるモレの教会
この他に印象派の画家には、ベルト・モリゾ、メアリー・カサット、マリー・ブラックモンなどの優れた女性画家がいます。
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