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2014年3月27日木曜日

デューラー ~ ヒューマニズムの自意識


デューラーの画集を見ました。
これまでまともに見てきませんでした。
新鮮な気分で見ることが出来ましたが、、、
最近観たもののうち最も力を感じさせるものでした。

「自画像」は特にそうです。

ルネサンス以前にこんな絵はまず存在し得ないでしょう。
このイエスのような風貌。まっすぐ前を向いている顔。
あまりにしっかり前を見据えているので、見ているこちらが見られているような感覚に陥ります。
瞳に自分が映されているような。
しかし、実はわたしの遥か先、遠くを強い眼力で見つめているのが解ります。

形式的にイエスや聖人以外にない顔の向きというだけでなく、
内容的にも同等な神聖を帯びた超越者‐自己となっていることを了解します。

そのイエスのごとく描かれた男は高価な毛皮のコートを着ており、
当時の誰もが一言、「ありえない」と呆気にとられて叫ぶような挑発的なものだったと思います。
ある意味、ルネサンス‐人間の復権と言われた時代を映した典型ともとれる自画像だったと思われます。(毛皮はイエスにも当時の画家の身分にもありえない衣装です)
デューラーの他の肖像画では、重要なパトロンであるマキシミリアン1世の肖像画でも頭部は斜め45度を向いています。
他の貴族などは伝統的な横顔です。

はっきり言って舐めています。

極めて意識的な意図的な絵です。
何気なく自分を正面から描くことなど出来ませんから。
横顔なら鏡を見つつなんとか描けます。

はっきり意味と意志を込めて描いていることは間違いありません。
姜尚中さんはこの絵を一言「マニフェスト」と呼んでいました。
まったくその通りだと思えます。
ドイツルネサンスはこの人が切り開いたのでしょう。

力強さを感じます。


デューラーの生まれたニュールンベルクは当時文化の最先端を行く街であり、当然その時代からして激震・地殻変動多くのせめぎ合いに見舞われた時期でしょう。文化的交通の激しい場所ならその揺れ幅も半端ではないはず。(1500年になると世界が滅亡するなどの終末思想も起きていました。)

そこにあってデューラーは大人気の画家・版画家となります。
それはまず彼が類まれな高度な技術を素描にも油絵にも版画にも持っており、おおくの題材を卓越した表現で制作できた点が挙げられますが、それだけでなく、その作品がほとんど版画で出版されていることです。
彼の絵は「ヒエロニムスの書斎」や代表作「メレンコリアー」のような晦渋な作品はありますが、世に蔓延している終末思想に絡んだ「ヨハネの黙示録」などの木版画もあります。これは厳粛で高尚なキリスト教画というより、身近で風俗的な人物の登場する感覚に大変訴えやすい劇画調の内容になっています。これなら特に教養がなくても子供でも興味を持ってその世界を思い感じることが出来ます。実際、市民に大変な好評を得て売れに売れたそうです。

彼の庇護者のマクシミリアン1世が非常に優れたメディア戦略家であったことから進んで版画印刷で様々なアピールをします。そのなかの重要なポイントをデューラーが担います。
デューラーはその制作費の請求にも長けており、それをもとにした資産運営によって生活を豊かに安定する方法を講じています。その点でも事業的にも成功したルネサンス人です。

やはり力強い。

しかし、「メレンコリアー」のような羽をつけた女性芸術家がやはり遠くを鋭く見つめている象徴や謎の詰まった画像。「憂欝は芸術家の魂」と彼自身の言うように。
ニュールンベルクの人なら知らない人はいないという「祈る手」などの敬虔な作品。(その元になった大作は焼失しています)
これらを見ても、デューラーの抱え持つものの大きさと強靭さを感じないではいられません。




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