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2014年4月8日火曜日

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ ~ 氷の海 ~


わたしの最も好きな絵の一つである。
勿論、画家もそうだ。


遥か彼方を打ち眺める人物。
しかも後ろ姿。

廃墟・廃園。

渓谷。

雲海。

自然の力ー氷に無残に打ち砕かれた船。

死と大自然の神秘。

そして月。

何をとっても、わたしの生理にぴったりくる。
自分がつい見入ってしまう絵とは、生理に沿う絵である。

彼の画集その他パンフレットなどの説明には必ず以下のことが書かれている。

13歳の時、河でスケート遊びをしていたところ、が割れて溺れ、彼を助けようとした一歳年下の弟クリストファーが溺死してしまう。フリードリヒはこの事で長年自分を責め続け、うつ病を患い自殺未遂も起こした。その後、姉や母も亡くし、彼の人格形成にも多大な影響を及ぼしたことは想像に難くない、といったことだ。

確かにそのとおりだろう。
しかし、その経験を経て、このような絵画作品を作成出来たのは、まさしくフリードリヒであった。
誰もが自分の極めて個人的な悲劇をこのような形で普遍的なものに昇華出来るわけではない。
そしてその感触がとても心地よい。
人を寄せ付けない冷酷な自然。
顔の分からぬ紳士(淑女)が遠い、遠い彼方をただ見つめ続ける後ろ姿。
キリコの人物が動かぬように、それらの人も永遠に動く気配はない。

夜空には月が凍てついて輝いている。

とくに「氷の海」の美しさ。
時間を失った世界。
フリードリヒが一生涯手放さなかった絵である。

その理由は、痛いほどによく分かる。


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